2012年に前立腺悪性腫瘍手術(前立腺全摘除術)がロボット支援腹腔鏡下手術としてはじめて保険適応となり、その後外科的診療を行っている多くの診療科の手術に適応が広がっています。泌尿器科でも、2016年に前立腺癌に次いで比較的小さな腎癌に対する腎部分切除術が保険適応となり、現在では膀胱癌・腎盂尿管癌など悪性腫瘍を対象とした手術中心に多くの手術がロボット支援下に行われるようになっています(表1)。
当院では 2019年2月からロボット支援手術に取り組んでいます。腹腔鏡下手術を含めると従来開腹で行ってきた手術のほとんどがロボット支援腹腔鏡下あるいは腹腔鏡下で行われ、出血量も減少し、術後の患者さんの回復に寄与しています。
※:手術枠の関係で主にロボット支援ではない腹腔鏡下に行っています(2025年1月現在)
手術 | 症例数 |
---|---|
前立腺全摘除術(前立腺癌) | 32 |
腎部分切除術(腎癌) | 10 |
腎摘除術(腎癌) | 1 |
膀胱全摘除術(膀胱癌) | 6 |
腎盂形成術(腎盂尿管移行部狭窄症) | 2 |
合計 | 51 |
限局性前立腺癌に対する根治療法には、前立腺全摘除術、放射線療法(外照射・小線源療法)があります。
前立腺全摘除術は前立腺・精のうを摘出し、残った膀胱と尿道をつなげ直す(吻合する)手術です。開腹であれば下腹部を10cm以上切開し、出血量も平均 1500ml程度と多い手術になります。尿失禁や勃起不全などの合併症があります。
ロボット支援下手術では、創部は 1-1.5cmのものが6ヵ所です。前立腺の摘出の際には、そのうちのひとつを3cmに延長します。術後の痛みが軽減され、回復が早いといわれています。腹腔鏡下手術と同様に炭酸ガスを充満させて術野を確保しながら手術を行います。開腹術に比べて出血量は明らかに少ないといわれています。腹腔鏡下手術では前立腺切除後の尿道膀胱吻合の運針などに高度な技術が必要でしたが、ロボット支援手術では持針器にも関節があるためそうした運針を容易かつ確実に行うことが可能です。3D(三次元映像)かつ拡大視野が可能なロボット支援下手術では、高精細な手術で腫瘍組織摘出の精度の向上も見込めます。術後に生じる尿失禁を減らすことや、勃起神経を温存することにも有利であるという報告があります。
ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術は25°頭を下げた特殊な体位(頭低位)で行います。前立腺を切除して尿道をつなぎなおすという手術の方法は開腹術と大きく変わりませんが、腹腔内を経由して前立腺にアプローチするのは開腹術とは異なるところです。症例によってはロボット支援手術に向かないこともありますので、手術の選択に際しては、主治医とよく相談の上お考え下さい。
腎癌は腎臓の実質に発生する癌で、増加傾向にあります。腎癌の治療では手術療法が基本的な治療になります。大きな腫瘍では腎摘除術が選択されますが、一般的に 4cm未満の腫瘍では腎の温存が可能であり、主に腎部分切除術が行なわれています。腫瘍とその周囲の腎実質を切除する手術ですが、露出した尿の通り道や欠損した腎の実質を縫合して尿や血液が漏れてこないようにする必要があります。
もともと開腹で行われていた手術で、最近では腹腔鏡下腎部分切除術も積極的に行なってきました。腹腔鏡下手術では、腫瘍摘出後に欠損した腎臓を縫合することは難易度が高く、技術が必要です。腫瘍の部位や形態などの条件で開腹による腎部分切除術や腎臓自体を切除する腎摘除術を余儀なくされることもあります。また、開腹術では約20cmの切開創が必要です。
ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術は、創部は 腹腔鏡下手術とかわらず、開腹術に比べると術後の痛みや回復の点で有利であると考えられています。
また、鉗子が関節を持って自由に動くので、腫瘍の切除や切除後の断面の止血・縫合処置が容易です。そのため、従来の腹腔鏡下手術であれば困難であったより大きな腫瘍や難しい部位に位置する腫瘍の切除も可能であるといわれています。手術は腹腔鏡手術と同じく、横になった体位(側臥位)で行います。
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