当院は、日本食道学会・食道外科専門医準認定施設であり、食道治療を専門とする医師が診療にあたっています。食道がんの治療には、1) 内視鏡的粘膜切除術、2) 手術、3) 術前化学療法+手術、4) 根治的化学放射線療法(CRT)があります。食道がん診療ガイドラインに準じて(図1)、がんの進行状態、手術を受ける予備力を十分に考慮して治療方針を決めております。患者さん、ご家族と十分に相談し、個々の症例に応じた治療法を選択しています。
図1 食道がん診療ガイドラインによる治療アルゴリズム(引用)
内視鏡的切除が不可能なステージlまでの患者さんで、手術を受ける予備力のある患者さんには、根治術として手術をおすすめします。ステージll-lllの患者さんには、標準治療として術前化学療法+手術をおすすめしています。全国規模のJCOG9907臨床試験の術前化学療法+手術の5年生存率は50~60%であるのに対し、JCOG9906試験の根治的化学放射線療法(CRT)の成績は、晩期放射線障害による死亡もふくめ5年生存率は30~40%でありました。当院のステージllの患者さんの根治手術後の5年生存率は64.7%、ステージlllの5年生存率は43.9%であり、化学放射線療法より良好な成績でありました。当院では、最新の低侵襲手術、栄養療法、リハビリ療法、在宅療法を導入して創意工夫し、多くの食道がん患者さんに体にやさしく、安全で質の高い手術を行ってきました。
食道がんの手術は、かつて頚部、胸部、腹部を開けて行う比較的に侵襲の大きい手術が行われてきました。当施設では、内視鏡、腹腔鏡の技術を取り入れ、安全性や根治性を維持しつつ肺や全身への負担が少ない、体にやさしい鏡視下食道がん根治手術(非開胸・鏡視下頸部・経裂孔アプローチによる縦隔鏡下食道がん根治術)を行っております(図2 図3)。
開胸手術に比べて、手術時間が短く、出血量が少なく、術後肺炎が極めて少ない術式であります。また、食道がん手術では、声帯の運動に関連する反回神経の麻痺を回避することも技術的に重要な課題でありました。当院では全例に持続神経モニタリング(NIM)法を用いてリンパ節郭清を完遂し、反回神経麻痺の合併症を防ぐ工夫を行っています。理想的な治療プログラムを示したクリニカルパスを導入し、術後は12-14日前後で8割以上の方が退院可能となっています。ハイリスク・高齢の患者さんの手術も可能であり積極的に行っています。体力維持、合併症回避のための術前および術後・在宅栄養療法、リハビリ療法も積極的に行っています。
図2 開胸開腹手術と非開胸鏡視下手術(気縦隔手術)の比較
図3 鏡視下根治手術(気縦隔手術)の治療症例 (1) 上縦隔リンパ節郭清 (2) 中縦隔・気管分岐下周囲リンパ節郭清 (3)上縦隔左反回神経周囲リンパ節郭清 (4) 下縦隔リンパ節郭清
図4 食道接合部がんにおけるガイドライン指針
図5 食道胃接合部がんの治療症例 (1)-(3):食道胃接合部腺がんの内視鏡所見と透視所見 (3) 腹腔鏡下の下縦隔郭清と食道裂孔周囲・膵上縁郭清後 (4) 下部食道切除+噴門側胃切除+逆流防止機構作成後の内視鏡所見
ご高齢、併存疾患をもつハイリスクの患者さんにも安心して受けていただけるよう、術前・術後のリハビリ、栄養サポート、化学療法も積極的に行っています。詳しくは、専門の外来担当医にご相談ください。
当院の胃がんの外科治療は、胃がん治療ガイドライン(図1)に準じて、胃がんを専門とする医師(日本内視鏡外科学会技術認定医(http://www.jses.or.jp/about/certification.html)、日本消化器外科学会専門医)のもとで行っております。体にやさしく安全で質の高い手術を心掛けております。
図1 胃がん治療ガイドラインによる治療アルゴリズム
当院の胃がんに対する切除症例数はESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を含めると年間250例を越えており、腹腔鏡手術の割合も年々増加傾向にあります(図2)。過去のデータ(図3)に基づいて患者さんへの十分な説明を行った上で、進行度に応じて最適な治療法を選択しています。
図2 当院の胃がん治療症例数と治療内容の変遷
図3 当院の胃がん手術症例の予後
当院の胃がん治療成績(図3)は、日本胃がん学会の全国規模調査結果とほぼ同様の結果であります。各ステージ別の治療方針の概要を以下にお示しします。
図4 腹腔鏡下噴門側胃切除のシェーマと術後内視鏡所見. 腹腔鏡下に噴門側胃切除(胃上半切除)と食道残胃手縫い吻合を施行。逆流防止機構を作成。術後6か月目の内視鏡所見で逆流性食道炎を全く認めない。
2. ステージll、lllの胃がんに対しては、腹腔鏡あるいは開腹よる系統的リンパ節郭清を伴う根治手術を行なっています。腹腔鏡手術は、日本内視鏡外科学会技術認定医を取得後に十分に経験を積んだが医師が担当致します(図5)。高度のリンパ節転移や他臓器への浸潤を伴う症例には、胃がん治療ガイドラインに準じて術前化学療法後に根治術を行っています。術前・術後の栄養サポート、補助化学療法も積極的に行っています。
図5 進行した胃がんの腹腔鏡下リンパ節郭清後の所見 (1) 幽門下リンパ節郭清後 (2) 膵上縁リンパ節郭清後。
3.ステージlV因子を伴う高度進行胃がんに対しては、ガイドラインに準じて胃切除を行わず化学療法を行います。出血や狭窄を伴う場合や化学療法を行うこと不可能な患者さんには、症状緩和を目的とした手術(単純胃切除術、胃空腸バイパス術など)を行う場合もあります。ステージlV胃がんであっても化学療法が効き、画像検査や腹腔鏡検査(審査腹腔鏡検査)でステージlV因子が消失した場合(図6)は、コンバージョン手術(移行手術)による治癒切除術を行う場合があります(図7)。切除後の化学療法、栄養療法のサポートもしっかりと行っています。
図6 高度進行StagelV患者さんの化学療法前後の所見
図7 コンバージョン手術(移行手術):化学療法(SOX療法)を4コース施行後にStagelV因子が消失したため根治術を施行。術後4年半無再発で経過中。
いずれのステージの患者さんにも、十分にご説明をご理解いただいてから治療をすすめさせていただきます。入院後は、クリニカルパスという標準的な胃切除治療プログラムに沿って入院生活を送っていただきます。手術1~2日前に入院していただき、術後は 腹腔鏡 ・ロボット支援手術で6〜 9日 、開腹手術で9日~14日で回復していただき、退院が可能となります。
退院前にはリハビリ専門スタッフや管理栄養士、薬剤師によるカンファレンスを行い、退院後の質の高い生活に向けてサポートを行っていきます。外来栄養指導や在宅夜間経腸栄養療法なども積極的に行っています。ご紹介の先生との連携もしっかり行っています。
ご高齢の患者さんには、呼吸機能や体力への負担の少ない腹腔鏡手術を積極的に行い、早期に回復していただくよう治療計画を立てていきます。術前・術後のリハビリ、栄養療法、介護認定取得のサポートも積極的に行い良好な成績が得られています。詳しくは、外来担当医にご相談ください。
胃・十二指腸の粘膜下腫瘍に対しては、腹腔鏡内視鏡合同胃切除(LECS)を行っています。LECSは腹腔鏡と内視鏡の双方のメリットを活かして、広範な胃切除や十二指腸切除を回避して消化管の機能や形態を保持し、術後合併症を回避することが可能な優れた術式であります(図1)。腹膜播種、遅発性穿孔などのリスクのあるハイリスクの胃・十二指腸腫瘍に対しても、closed LECS、modified NEWS、LECS補助下胃部分切除、十二指腸LECSを標準化および改良して創意工夫し、安全に手術を行っています(図2)。予備力の極めて低い患者さんへの安全ながんの内視鏡治療、縮小治療への応用が期待されています。十分に治療経験を積んだ、日本内視鏡外科学会技術認定医、内視鏡専門医のもとで手術をおこないます。詳しくは、専門の外来担当医にご相談ください。
図1 LECSのメリットと手術風景. (左)LECSにより胃壁の切除範囲を小さくすることが可能。(2)腹腔鏡と内視鏡のモニターを並列にして協調的に手術を行う。
図2 噴門近傍の胃GIST切除例. (1)Modified NEWS法:胃壁を開けないことで、吻合口の変形を防ぎ、全層縫合で遅発穿孔を防ぐことが可能.ハイリスク腫瘍にも有用.(2)術前と術後の比較. 胃壁の変形を認めない.
「手術支援ロボット」は、外科医が操作ブースで手術支援ロボットを操ることで、開腹手術や腹腔鏡手術よりも緻密な手術を行うことが可能となるように開発された道具であります。人間の手より自由に動く多関節の鉗子と手振れ防止機能、さらに3次元画像用いることで、手術を直観的かつ緻密に行うことが可能となります。日本では前立腺、胃、食道、大腸、肺、婦人科疾患などの手術で保険収載されています。米国で2500台、ヨーロッパで500台、アジアで300台以上の手術支援ロボットが導入され、世界で年間6万件以上の手術が行われています。
当院でも2018年12月より手術支援ロボット・ダビンチXiを導入しています。十分に手術経験を積んだ術者(日本内視鏡技術認定医、da Vinci Certificate取得医、日本ロボット外科専門医、日本内視鏡外科学会ロボット支援手術認定指導医)のもと、食道胃接合部がん・胃がんに対してロボット支援下幽門側胃切除、ロボット支援下噴門側胃切除、ロボット支援下胃全摘手術を積極的におこなっています。
進行がんやハイリスク・高齢の患者さんを含めて、100例以上の症例に安全に行ってまいりました。より緻密で低侵襲な手術ができ、術後6~8日で回復して退院していただくことが可能となっています。ロボット支援下手術をご希望の方は、専門の外来担当医にご相談ください。
大腸がんを中心に、粘膜下腫瘍、憩室炎、直腸脱、肛門疾患の診療を行っております。大腸の手術件数は年間150件以上あり、90%以上に腹腔鏡手術を施行しています。腹腔鏡下大腸がん手術は開腹手術に比べ傷の痛みが少なく整容性に優れており、根治性や安全性の点で劣らないことから、現在では標準治療になっております。大腸がんの中でも直腸がんは手術難易度が高く困難な領域です。狭い骨盤内は男性なら前立腺や精嚢、女性であれば子宮や膣があり、膀胱も含めて血管と神経が複雑に入り組んだ構造になっています。そのため直腸がんの切除自体が困難なことはもちろんですが、それ以外にも永久人工肛門の回避、自立神経温存、性機能や排尿機能の温存などが重要な課題になっています。
さらにクリニカルパスとの組み合わせにより、根治性を損なわず治療の標準化・合理化を進め、かつ術後の回復を早めることで入院期間の短縮や高いQOLを得ています。切除不能進行・再発がんに対しては積極的に化学療法を行い延命に努力するとともに、終末期には専門チームとの連携による緩和ケア治療にも取り組んでいます。
5年生存率
当院では2018年12月よりロボット支援下手術 -da Vinci Xi- (ダビンチ)を導入しました。ロボットによる手術は、精緻で安定した手術操作を可能とし、今までの腹腔鏡下手術よりも、さらに安全性、根治性、機能温存を期待されている新しい手術です。今はまだ限られた患者さんへの提供となっていますが、今後は適応を拡大して、より多くの患者さんにロボットによる先進医療を提供する予定です。
直腸がんの中でも肛門に近い直腸がんほど永久人工肛門なります。当科では肛門から2cm離れていればISR(括約筋間直腸切除術)を含む肛門温存手術を行っています。従来は、お腹側より肛門に向かって腹腔鏡手術を行っていましたが、肛門に近くなればなるほど腹腔鏡手術は操作制限が生じ困難となります。TaTMEは肛門側より手術を行う新しい手術方法で、腹腔鏡では遠くて難しい肛門近くの直腸切離を、肛門より行うことで確実に切離できる長所があります。今まで永久人工肛門が避けられなかった患者さんもこの手術で肛門温存が可能となることがあります。
※一時的な人工肛門が造設されることはあります
※手術後は排便回数の増加や失禁が生じることがあります
肝臓がんは肝臓から発生する“原発性肝がん”と他臓器から転移して生じる“転移性肝がん”があります。さらに、“原発性肝がん”は肝細胞から生じる“肝細胞がん”と胆管から生じる“胆管細胞がん”の2種類があります。
肝切除数の年次推移
肝細胞がんは、C型やB型肝炎ウイルスに感染している人や、アルコール性肝炎、脂肪性肝炎にかかられた人の肝臓から発生してくることが多いがんです。これら肝細胞がんのリスクの高い人は、早期に発見して治療開始できるように、定期的に検査を受けることが必要です。治療方法には内科的治療と外科的治療があります。
内科的治療には経動脈性塞栓療法(TAE)、経皮的ラジオ波焼灼法(RFA)、経皮的エタノール療法(PEIT)などの治療法があり、これらは消化器内科(肝臓グループ)が担当しています。1年間の治療件数は、慢性肝炎のインターフェロン療法が新規約20例、肝臓がんのエコー下穿刺法を用いた局所治療が延べ130件以上、肝臓がんの血管カテーテルを用いた塞栓療法が約180件行われています。
肝細胞がんは肝硬変が基礎疾患にあることが多いため、厳重な術後管理が必要ですので、慎重に手術適応を判断しながら原則的に肝切除術を行っています。内科的治療では根治的治療が困難な高度進行肝がん症例も積極的に切除を行っております。 どの治療を選択するかは、内科と外科で綿密に検討を行い治療方針を決定しています。
外科的治療に関しては、肝細胞がん治療アルゴリズム(図1)を参考にしながら、術前に、腫瘍の局在、肝予備力、予想残肝容積を厳密に3−D画像を用いて検討しています(図2)。
肝臓内の胆管から発生するがんで、肝臓がんに含まれていますが、性格は胆管がんと似ており、リンパ節転移をきたすことがよく見られます。また肝細胞がんのような肝臓内の局所療法はなく、原則手術療法が第一選択となります。
転移性肝がんの原発巣の多くは大腸がんです。大腸がん肝転移に対しては、まず第一に肝切除が最も長期生存が期待できる治療法です。複数個の転移があっても、術前に3D画像でシミュレーションし、切除可能と判断すれば、R0(肉眼的にがんを取りきる)完全手術を行っております。
近年の化学療法の進歩が著しく、進行大腸がんにおいて、全身化学療法で良好な成績が出ております。よって、発見時すでに多発の肝転移が認められる症例は大腸と肝臓を同時に切除するよりも、全身状態、がんの進行具合によっては全身化学療法を先行し、安全に切除が可能となれば、積極的に肝切除を行っております。
2012年より腹腔鏡下肝切除が保険承認されました。当院でも、患者さんの負担の軽減、術後の痛みの軽減、早期回復を目的に肝切除にも腹腔鏡の技術を導入し、約1-2cmの傷数カ所で手術を行っています(図1、2、3)。導入当初は肝表面の比較的小さな腫瘍に対する肝部分切除と外側区域切除に限定していました。しかし、2016年4月より肝亜区域切除から肝区域切除、肝葉切除に保険適応が拡大されましたので、安全性をしっかりと確保しつつ、手術適応を拡大しており、現在腹腔鏡下での肝切除は50%になっております。
胆汁は肝臓で作られ、胆管を流れて、消化管に運ばれます。胆管は場所により名前が異なり、肝門部胆管、胆嚢、遠位胆管、乳頭部にわけられます。どの部位にがんができるかによって病名や治療法が異なります。
胆嚢がんに対する基本的な治療は外科的切除です。がんの存在部位や進行度に応じて様々な術式が選択されます。
下記「胆嚢腫瘍アルゴリズム」にのっとって術式選択を行います。
粘膜内に限局する胆嚢がんは、腹腔鏡下(開腹)胆嚢摘出術で十分根治可能です。もう少し深いところまでがんが浸潤している場合 、拡大胆嚢摘出術といって、胆嚢と胆嚢に近い部分の肝臓を少し切除します。
やや進行した胆嚢がんでは、胆嚢管や胆管周囲のリンパ節に転移を認めます。 実際、胆嚢がんは高度に進行した状態で診断されることも多いのが現状です。そこで、胆管に添ったリンパ節を完全に摘出するために胆管を切除し、肝臓の一部の区域をあわせて切除することがあります。胆嚢がんが十二指腸に浸潤している場合や転移リンパ節が膵臓に浸潤している場合は膵頭十二指腸切除術(膵臓、十二指腸も一緒に切除する手術)が行われます。また、がんが肝臓に深く浸潤している場合、肝臓の1/2〜2/3を切除する肝葉切除が施行する場合もあります。
術前診断のつかない腫瘍性病変に対しては、消化器内科(胆膵グループ)と十分連携し、侵襲の少ない検査、治療から行い、病気の進行度、悪性度に応じて追加治療などを進めていくことにしています。
胆管がんは術前検査、術後治療、精査など外科だけで治療が進みません。
悪性と診断がつかない場合、手術適応を決めるにあたり、内科と合同で検査を進めることがあります。
例として、胆道鏡を用いることで、腫瘍の正確な肉眼形態、正確な腫瘍場所、正確な大きさ、確実な生検、また超音波内視鏡を併用することで胆管内での進行の範囲、進行の深さなどがこれまでより正確にわかり、手術適応の判断や必要かつ十分な手術術式決定ができます。
肝門部に近い胆管がんは肝切除が行われます。膵臓内を走行する下部胆管がんの場合は、膵頭十二指腸切除が行われます。
さらに、術後再発した腹腔内腫瘍のため胆汁の通過障害があれば、消化器内科で内視鏡下にステント挿入することで開腹手術を回避できたり、積極的に内科外科が連携しており低侵襲治療に努めています。
膵臓は腹部の中で奥深いところにあり、病気が発生しても症状が出にくく、早期発見が難しいため進行がんで見つかることが多いのが実情です。当院では、エコー・CT・MRI・超音波内視鏡検査などを駆使して、積極的に早期発見につとめています。最近は近隣のかかりつけ医の先生方と連携して早期発見のプロジェクトを進行中です。
膵腫瘍の手術症例数の年次推移
膵がんの特性として、腫瘍の大きさが小さくても、悪性度が高く、また周囲の組織(神経、胆管、リンパ節)に転移・浸潤しやすいため、見つかった時には進行してしまっている場合も少なくありません。その場合、根治手術が難しかったり、再発しやすかったりします。膵がんについては、膵がん診療ガイドライン2019年版に準拠して、腫瘍の進行程度に合わせた標準的手術を行っています。 腫瘍が周囲組織に進行している場合、術前に放射線照射を行ったり、抗がん剤による薬物療法を行って、腫瘍の縮小を測ったのちに根治術に臨んでいます。
《膵がん、膵腫瘍の治療》
切除が可能な膵がんは手術で全てを取り除くのが最善の治療です。また進行がんに対しては、徹底的なリンパ節廓清、門脈合併切除も積極的に行い、根治性の高い手術を目標としております。
膵がんの手術は大きく2つに分けられます。がんが膵頭部にある場合は膵頭十二指腸切除術を、膵体尾部にある場合は膵体尾部切除が行われます。
(膵頭部・十二指腸・空腸の一部・胃の一部・周囲のリンパ節を一塊に切除する手術)は、消化管の手術の中でも最も難易度の高い手術のひとつですが、当院ではこのような手術も安全に施行しております。また近年の流れでもある縮小手術にも取り組んでおり、悪性度の低い膵腫瘍に対しては、機能温存手術(膵部分切除、膵分節手術、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術、血管温存十二指腸切除術)を施行しています。進行膵がんに対しては、手術だけでは限界があるので、放射線療法、化学療法(抗がん剤)などを追加するようにしていますが、長期生存が得られる症例はまだ少ないのが現状です。
がんが膵体部,膵尾部にある場合には,膵体尾部切除術という手術を選択します。周囲のリンパ節を十分に切除するには脾臓も合併切除を行います。膵臓は左右に長い臓器のため,開腹手術ではお腹を大きく切って行っていました。現在は、症例を選びながら、腹腔鏡下の小さな傷で手術を行い、患者さんへの負担を軽減し、術後の早期回復を目指しています。
良性腫瘍の場合には,脾臓を温存する手術も試みています。
最近では、複数の抗がん剤が開発され膵がんにも有効な治療が増えつつあります。実際、切除不能であった進行膵がんが抗がん剤で著効を示し、手術が可能となった例も見られます。当院ではさまざまな補助療法を組み合わせて、患者さんの希望に沿った治療選択に努めています。
当院の消化器内科は膵、胆道の検査が京都で最も多い施設の1つで、がん化の可能性が高いIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)が発見される例が多く、国際ガイドラインに準じて診断治療を行っています。
また、近年神経内分泌腫瘍(NE N)の概念も確立し、P-NE N(膵神経内分泌腫瘤)の手術症例も増えています。
進行膵がんに対して手術単独の治療では限界があり、症例により放射線療法や化学療法などを追加しています。化学療法の進歩(ゲムシタビン、ティーエスワン、ナブパクリタキセル)により生存期間の延長が見られ、切除不能であった進行膵がんが抗がん剤で著効を示し、手術が可能となった患者さんもおられます。
さらに、近年、術前化学放射線療法(NACRT)により、根治切除が可能になったり、生存期間が延長する例も見られ、消化器内科や放射線科と合同カンファレンスを行い積極的にNACRTを行っております。(図1)
腹腔鏡手術については、導入時は低悪制度膵腫瘍に対してのみ保険承認されていましたが、2019年から膵がんに対しても保険適となりました。当院も侵襲が少なく整容性に優れ疼痛が少ない腹腔鏡下手術を積極的に取り入れています。(図1、図2)
日近年、肝、膵の手術が腹腔鏡で行われる機会が増えてきました。2010年肝切除、2014年膵切除の腹腔鏡手術が保険適応となり、徐々に膵は良性から悪性腫瘍へ、肝は切除範囲が拡大されてきました。
さて、2020年より膵切除でロボット手術が保険適応になりました。
しかし、ロボット支援下膵手術はまだまだ一般的な手術ではありません。胃や大腸は少しずつロボット支援下手術が増えてきていますが、これまでは膵臓に関しては一部の大学病院が中心に行われている程度です。しかし、多くの報告から安全性、低侵襲が明らかになってきており今後ロボット支援下手術が増えていくと考えられています。
当院でロボット手術機器(ダ・ヴィンチ)が導入されたのは2018年12月です。決して導入が早かったわけではありませんが、他臓器(前立腺、肺、胃、大腸)での手術数は順調に増えてきております。
手術では術者は直接患者さんに触れず、ロボットを操作する操縦桿のようなコンソールと言われる場所から操作し手術します。3Dの精細画像を見ながら手振れのないロボットアームを駆使して手術を進めます。傷は従来の腹腔鏡と同様もしくはさらに小さく少ない傷で手術可能です。もちろん手術を行うにはかなりの時間の訓練が必要になります。(図1)
さて、コロナ禍での新規手術導入はいくつか難しい点もありましたが、ロボット支援下手術が患者さんに負担の少ない術式で、経験豊かな指導者の協力を得て安全性を確保しながらロボット支援下膵切除術を行っております。近年膵疾患も増加傾向にあるため、これからもロボット支援下膵切除術が増加していくと考えています。
遺伝性球状赤血球症、特発性血小板減少性紫斑などの血液疾患あるいは脾腫瘍(リンパ腫、転移性腫瘍)が対象となります。このような疾患では脾腫(脾臓が大きくなる)の場合もありますが腹腔鏡手術で対応可能です。腫瘍でない場合、摘出脾臓は特殊な袋に収納し粉砕して摘出しますので、傷は最大3cm前後で施行可能です。
従来ならば開腹では15~18cm、HALS(用手補助下腹腔鏡手術)でも8cmの傷が必要ですが傷は臍に3cmで、その他の傷は0.5~1cmを4か所用いて行います。(図1)
入院期間も短くて済み、5日間程度で退院可能です。傷が小さいため痛みも少ない良い手術方法と考えています。
最近は腹腔鏡下脾摘術の安全性が向上し門脈圧亢進症に伴う脾腫や胃静脈瘤の血行郭清を伴う症例も腹腔鏡で行っています。
日本肝胆膵外科学会は、高難度の手術をより安全かつ確実に行うことができる外科医師を育てることを目的として、肝胆膵外科高度技能専門医制度を立ち上げました。高度技能専門医であることは、高度技能指導医のもと、high volume centerといえる修練施設で経験を積み、認定基準に定められた手術実績数を持つ医師であることを表します。
当院では、高度技能指導医である谷口が肝胆膵外科領域の悪性腫瘍に対して、高難度手術に積極的に取り組んでおり、高度技能専門医を育てるべく指導しております。
日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医修練施設に認定されるように、2013年に申請いたしました。認定の基準は「肝臓や膵臓などの難度の高い手術を行うことができる肝胆膵外科学会高度技能指導医が常勤し、かつ肝胆膵外科領域の高難度手術症例を行なっている施設」というものです。京都で高度技能専門医修練施設に認定されているのは、現時点で当院を含め5施設のみです。
当院の胆嚢摘出術の年間手術数は約100例。基本的には腹腔鏡下胆嚢摘出術が基本です。臍部に12mmのカメラポートを挿入し、季肋部に5mmの鉗子ポートを3か所挿入して(合計4ポート)、内視鏡で見ながら胆嚢を摘出します。術後の痛みが少なく、回復が早く、食事も普通に取れるようになります。上腹部手術の既往がある方は開腹手術となることもありますが、可能な限り腹腔鏡下胆嚢摘出術を選択しています。(図1、2)
当院ではクリニカル・パスを導入し、通常は術後3日で退院していただいています。手術される方は胆石発作をおこされた方がほとんどです。胆石症は良性疾患ですので、基本的には放って置いて良いのですが、なかには胆石症の患者さんに胆嚢がんが見つかる場合(2%程度)もあり、超音波検査を定期的に受けておかれることをおすすめします。
また胆嚢ポリープは珍しい病気ではなく、多くの健康成人のかたに認められます。ほとんどは5mm以下の小さいもので、コレステロールポリープであり、放って置いて良いものです。しかし、10mmを超えるものは、なかにはがん細胞が潜んでいることもありますので、超音波検査を定期的に受けて、大きくなる場合は、摘出されることをおすすめします。
近年、一般的に胆嚢摘出術は腹腔鏡にて手術を行います。これまでは4ポート(3本の鉗子と腹腔鏡)にて手術を行うのが一般的でした。当院では、さらに傷が少なく、目立たない、痛みの少ない単孔式腹腔鏡手術を積極的に行っています。
単孔式腹腔鏡下手術は、臍に1ケ所の切開創(2~3cm)をおき、この傷から複数のトロッカーを挿入し操作する術式です(臍窩縦切開法)。傷跡がほとんど残らず、通常の腹腔鏡下手術に比べ整容上優れています。一方、1ケ所の創から2本の鉗子と腹腔鏡を挿入操作するため、器具がぶつかり合い、技術的に難しく術者にとってはストレスが大きい方法でもあります。
当院の術式は、そのストレス軽減と手術時間短縮を目的として、もう1か所2mmの創を使って行います。2mmの創は小さく術後1か月もするとほくろ程度で目立たなくなります。術者、患者さんともにメリットが大きい術式といえます。臍窩縦切開法は極めて速やかに腹腔内に到達でき、傷跡が全く見えない優れた方法であり、安全性も極めて高く、手術時間が短くて済みます。(図1、2)
さらに最近は緊急手術で行う胆嚢炎に対しても条件がそろえば、単孔式胆嚢摘出術を行うこともあります。胆嚢の炎症が強い場合、腹腔鏡手術は容易でない場合も多いのですが、単孔式で手術を終えた場合、傷の痛みが少ないため、従来法の開腹術や4ポートに比べて傷の感染が少なかったり痛みが少なかったりメリットの多い術式と考えています。
胆嚢炎ガイドラインが2018年に整備されました(Tokyo Guideline 2018)これに基づき必要な症例には緊急もしくは早期に腹腔鏡手術にて胆嚢摘出術を行っています。これにより患者さんの病悩期間、入院期間を短くするように心がけております。
これも消化器内科と連携をとり、患者さんに寄り添う治療を行っております。
緊急に手術を受ける疾患の最も多い病気の1つに虫垂炎があります。手術適応がある場合、近年腹腔鏡で行うことが多くなってきました。傷が目立たないこと、痛みが少なく、入院期間が短いこと、術後癒着が少なく腸閉塞の合併症が少ないことがお勧めする理由です。これも希望に応じて行っております。
お腹と足のつけ根の間あたりがプクッとふくらんでくる状態を鼡径(そけい)ヘルニアといいます。いわゆる「脱腸」です。
鼡径部にもともと血管(男性の場合は精管)の通り道(これを鼡径管といいます)があります。この鼡径管の出口(鼡径輪といいます)がゆるんでくると、お腹の中の小腸が腹圧をかけたときに鼡径管の中に脱出します。これをヘルニア(注1)といいます。腸が鼡径管の中に出るものを内鼡径ヘルニア、鼡径管の裏の腹筋が弱くなってふくらんでくるものを外鼠径ヘルニアと分類しています。また、足の付け根の大腿筋の隙間から腸が脱出するものを大腿ヘルニアといいます。鼡径ヘルニア全体では約70%が男性ですが、大腿ヘルニアのみは女性の比率が高くなっています。
(注1)「ヘルニア」とは英語の”herniation”(=はみ出た状態)の意味で、他にも「椎間板ヘルニア」や「脳ヘルニア」などといったものがあります。
初期には下腹に力をいれたときにプクッとふくらみ、力を抜くと元に戻るだけですが、何ヶ月も経過すると次第に大きくなってつっぱり感や痛みがでてきます。そのときも多くは横になったり上から押すだけで元に戻ります。一旦ヘルニア状態になってしまうと自然に治るということはありません。また薬で治ることもありません。「ヘルニアバンド」という突出部を押さえる用具がありますが、大きくなってくると押さえきれなくなりますし、これを使用しても残念ながらヘルニアが小さくなることはありません。注意しなければならないのは、たくさんの小腸が鼡径管の中に入り込んで戻らなくなる「嵌頓(かんとん)状態」になる場合があることです。嵌頓した状態が数時間続くと、腸の血流が阻害されて腸が腐り(「壊死」といいます)、その部分を切除しなければならない場合もあります。たかが脱腸で腸まで切る、という事態を予防するのが鼡径ヘルニアの修復手術をする理由です。
当院では1997年から次に示す手術法(メッシュプラグ法)を採用しており、現在までに8000件以上の手術を行ってきました。
鼡径ヘルニア手術のポイントは、
の2点です。
a.”plug(プラグ=栓)”という図上段のようなある素材でつくったものを鼡径輪につめ込んで「フタ」をします。b.さらにこのプラグと同じ素材のメッシュ状の膜で弱くなった筋膜を補強します。
手術時間は通常40〜60分です。麻酔は腰椎麻酔または全身麻酔のいずれかを患者さんの状態によって使い分けています。
近年は腹腔鏡下にメッシュを腹壁の内側からあてる方法も普及しつつあります(図下段)。全身麻酔が必須となり、手術時間も若干長くなりますが、傷はほとんど目立たず、術後の疼痛が軽減されます。過去に開腹手術歴のない方に適応されます。
ほとんどの患者さんは、クリニカルパスという当院で作成した治療計画に沿って入院期間を送っていただきます。手術の前日に入院していただき、手術の翌日には歩行できます。特に大きな持病や合併症がない限り手術の2日後に退院となります。
虫垂はお腹の右下にある虫垂(盲腸のすぐ下)が炎症を起こす疾患です。
胃痛のような症状から徐々に右下に痛みの場所が移動するのが典型的とされています。あまりがまんをして放置すると膿瘍を作ったり、穿孔して腹膜炎になったりするので注意が必要です。
急性期に緊急手術をすることが多いのですが、炎症の程度によっては一旦抗生物質で散らして計画的に手術を行う方法もあります。その場合、患者さんの都合(仕事や学校)にあわせて入院し、虫垂切除を行います。手術前日に入院していただき、術後は2日で退院となります。
開腹手術歴がなければ腹腔鏡下手術を選択することもできます。
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