上部消化管(食道・胃・十二指腸)の病気について

食道がん(早期・進行)

食道の粘膜にできる悪性腫瘍(がん)です。初期には自覚症状がほとんどないことが多いですが、進行すると胸の違和感、飲み込みにくさ、体重減少などの症状が現れることがあります。

胃がん(早期・進行)

胃の内側(粘膜)にできるがんで、ヘリコバクターピロリ菌の感染が主な原因とされています。ピロリ菌を除菌した後でも発生することがあり、内視鏡検診での発見が増えています。

十二指腸腫瘍(腺腫・がん)

十二指腸の粘膜にできる腫瘍で、近年増加傾向にあります。症状がない場合も多く、健康診断や内視鏡検査で、偶然発見されることがほとんどです。

中・下咽頭がん(表在がん)

咽頭(のど)にできるがんのうち、粘膜の表面にとどまるものを「表在がん」といいます。
当院では、耳鼻咽喉科・頭頸部外科と連携し、内視鏡を用いた手術を行っています。

消化管間葉系腫瘍(GIST)などの粘膜下腫瘍

胃や腸の壁の深い部分にできる腫瘍です。当院では、消化器外科と協力し、LECS(腹腔鏡と内視鏡を併用した手術)による治療を行っています。詳しくは、消化器外科のページ(リンク)をご覧ください。

逆流性食道炎

胃酸や胃の内容物が食道に逆流し、炎症を起こす病気です。胸やけやゲップ、口の中が酸っぱく感じる(呑酸・どんさん)などの症状が現れることがあります。

機能性ディスペプシア

胃の粘膜に異常がないにも関わらず、胃の痛みや胃もたれなどの症状が慢性的に続く病気です。

検査・治療法の詳しい説明

早期食道がん、早期胃がんの内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

ESDの利点

食道がんも胃がんも内視鏡検査が普及して早期発見できる症例が増えてきました。早期発見できれば、体への負担(侵襲)がより少ない内視鏡的粘膜下層剥離術(ESDと略します)の治療が可能となります。以前はEMR(粘膜切除術)といって切開スネアー(輪状の器具)にて切除する方法が行われていましたが、最近はESDによる治療が主体になっています。

ESDとは、食道や胃にできる早期がんや前癌病変(腺腫や異型上皮)などの腫瘍に対して、内視鏡を用いて、食道や胃の内側から表面の腫瘍を高周波電流(電気メス)にて切除し剥がし取っていく方法(図1)です。最大の利点は、好きな形や大きさに切除できることです。したがって、癌の取り残しによる再発を防ぐために、病変をひと回り大きく切除することができます。また、術後の痛みがほとんどなく、切除翌日には歩行ができ、術後2日目には食事開始が可能となります。ESDは胃や食道の内側から内視鏡で表面を剥がし取る治療ですので、術後も胃や食道の容量が小さくならず、ほぼ元通りに残るため、従来通りの食生活が保たれます。ESD治療に最もふさわしい病変は、胃癌の場合、治療ガイドラインに基づけば、『潰瘍を伴わない粘膜内病変』になりますが、上記条件に必ずしも一致しなくとも『適応拡大病変』であればESDを行えます。実際にESDが可能かどうかは病変の大きさ、深さ、部位、組織型(癌のタイプ)や患者さん自身の全身状態などから判断しますので、担当医と相談していただく必要があります。食道がんも同様に、原則、粘膜内にとどまる浅い病変が治療の適応になりますが、手術と比べると侵襲(体への負担)が軽くて済みますので、年齢や体力、併存する病気によっては、少し適応を広げて治療の対象になる場合もありますので、やはり担当医としっかり相談いただくことになります。当院では色素内視鏡や超音波内視鏡などの従来からある検査に加え、NBI(Narrow Band Imaging)といわれる画像強調観察、NBIを用いた拡大観察などの特殊検査により的確な術前診断を行い、外科での手術(開腹、腹腔鏡、ロボット支援下手術)が必要なのか、消化器内科でのESDで根治(治癒)可能かを決定します。

切開剥離法
図1
ESDの実際

8日間の入院を要します。これらの治療を行う際、点滴を行った上、血圧や呼吸状態を観察しながら鎮静剤、鎮痛剤(麻酔)を使用します。当日は、トイレ歩行以外は控えていただきます。腹痛、胸痛、発熱、吐下血がなければ翌日から歩行は可能で、その後数日間の点滴、内服を必要とします。術後2日目より流動食摂取を開始し、退院時は5分粥(水分多めのお粥)を摂取いただけます。切除した病変の病理組織学的結果は、深達度(がんの深さ)、切除断端(取り残しなく切除できているか)などを詳細に診断した上で、退院前後に担当医より説明を受けることになります。内視鏡治療のみで完治(治癒)と判定されるのが理想ですが、もし非治癒と判定された場合は、原則、後日再入院の上、追加の内視鏡治療や外科的手術が必要になることもあります。完治(治癒)後も、初めは2〜3ヶ月後に一度、その後は6〜12ヶ月毎の定期的な内視鏡検査を必ず受けていただきます。

ESDの合併症

ESDの合併症には主として、穿孔と出血があります。穿孔(およそ3%くらい)は切除部位の消化管壁に穴があいてしまうことで、腹膜(や胸膜)に炎症が起きると、腹痛(胸痛)、発熱などを伴うことがあります。ほとんどのケースで、穿孔が起きても、穿孔部位の修復も内視鏡的に行いますが緊急の外科手術(0.04%)を必要とすることがごく稀にあります。出血に関しては、切除中にみられる場合と切除後しばらくしてからみられる場合があります。そのほとんどは内視鏡を用いて止血できますが、ごく稀には輸血(およそ1%くらい)や緊急手術を要することがあります。出血や穿孔などの合併症が生じた場合は絶食や入院期間が延長される場合があります。その他に症例によっては他の合併症が起こり得ますので、術前に担当医より十分、説明を受けて下さい。もし合併症が起きなければ、デスクワーク程度の仕事なら、通常は退院翌日にも可能です。

当院におけるESDの実績

近年、ESDはその高い治療効果と身体の負担の少なさから早期がんに対する標準治療として広く行われているようになっています。胃がんは、ヘリコバクターピロリ除菌治療が普及したこともあり、全国的にも減少傾向にありますが、当院においては食道がんは増加傾向にあります。当院では保険適応以前の2002年から導入して以来、現在(2024年12月末)までに食道で969病変、胃では3088病変の治療を実施しています。また、学術面でも、日本消化器内視鏡学会をはじめとした学会でのシンポジウム(主題)において演題が多数採択されており、加えてESDについての論文発表も精力的に行っています。

入院にはあらかじめ、一定のスケジュールが決まったクリニカルパスを導入し、患者さんには説明用の冊子を渡し、医師だけでなく、看護師、薬剤師、栄養士などの多職種チームでサポートし、事前の説明と同意(インフォームドコンセント)を大切にし、患者さんが安心して治療をうけていただけるよう努めています。また週に1回、内視鏡治療症例の検討会を行い、治療方針を共有し、チーム医療としてESDを行っています。そのため、担当医が異なっても、チーム全体で一貫した水準の治療を行うため、技量の差は出ませんので、ご安心下さい。定期的な内視鏡検査による早期発見が可能となりつつある現在、低侵襲な内視鏡治療としてのESDの担う役割は大きく、さらなる治療成績の向上と安全性の確保を目指しています。

食道ESD(病変数)
食道ESD
胃ESD症例(病変数)
胃ESD症例

咽頭がんの内視鏡的切除術(ESD)について

当院では、耳鼻咽喉科・頭頸部外科と連携し、内視鏡を用いた咽頭がんの治療を行っています。

この治療は、消化器内視鏡医と耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が協力し、全身麻酔下で口から内視鏡を挿入してがんを切除する方法です。この治療は、早期の咽頭がんに対する局所切除が対象となるため、進行がんには適応されません。治療の適応については、入院担当の耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医師にご相談ください。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)について

EMR(内視鏡的粘膜切除術)は、スネア(輪状の器具)を用いて腫瘍を切除する方法です。

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)と比べて短時間で治療が完了するという利点があります。
局注といって、腫瘍の直下に局注液(生理食塩水やブドウ糖)を注入し、下から腫瘍を持ち上げておいて切除する従来法の他に、最近はUnderwater EMR(浸水法)といって、消化管の管腔内を水で満たし、局注を行わずにスネアーで切除する方法があります。後者は、十二指腸の腫瘍に対して行われることが多いです。

光線力学療法(PDT)について

光線力学療法(PDT:Photodynamic Therapy)は、食道がんの局所治療の一つであり、体への負担が少ない(低侵襲な)治療法です。

この治療では、「レザフィリン」という特殊な光感受性物質を静脈から投与した後、内視鏡を用いてがんのある部分にレーザーを照射することで、がん細胞を破壊します。

治療に関する注意点

PDT治療後は、500ルクス以下の遮光(強い光を避けること)が必要なため、約2週間の入院が必要となります。

下部消化管(小腸・大腸)の病気について

大腸ポリープ

大腸ポリープは、大腸の内側にできる隆起性の病変を指します。大きさは数ミリ程度の小さなものから4cm以上のおおきなものまでさまざまです。ポリープは成り立ちによって、過形成、炎症性、腫瘍性の3つのタイプに分類されます。このうち、約8割以上が腫瘍性(大腸腺腫)で、放置すると少しずつ大きくなり、一部ががん化する可能性があります。通常は自覚症状がありませんが、大きくなると便との接触により少量の出血が起こる場合があります。

大腸がん

【早期大腸がん】

早期大腸がんとは、がんが大腸の粘膜内または粘膜下層にとどまっている状態を指します。がんの形態によって、「隆起型」と「表面型」の2つに分類されます。隆起型は大腸ポリープと似た形状をしており、内視鏡検査で表面の状態を観察することである程度判別が可能です。ただし、確定診断には、内視鏡による切除と顕微鏡検査(病理検査)が必要です。表面型は、平坦な隆起や浅いくぼみ(陥凹)として認識され、粘膜下層に広がる可能性があるため、早期発見と治療が特に重要です。

【進行大腸がん】

がんが進行し、内視鏡治療が難しい場合には外科手術が必要になります。
手術で切除が難しい場合は、抗がん剤治療(化学療法)を行うこともあります。
当院では、患者さんの体力や生活状況、遺伝子情報などを考慮し、腫瘍内科専門医を含むチームで最適な治療方針を検討しています。

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に炎症が起こり、慢性的に潰瘍やびらん(ただれ)ができる病気です。原因ははっきりとは分かっていませんが、さまざまな要因が関係して発症すると考えられています。。おもな症状は血便、下痢、腹痛で、炎症は直腸を中心に、大腸全体に広がることがあります。潰瘍性大腸炎は年々増加しており、日本国内で約18万人以上が罹患しているといわれています。特に10代から40代の若い世代に多く見られるのが特徴です。

クローン病

クローン病は、小腸や大腸に慢性的な炎症が起こる病気です。はっきりとした原因は分かっていませんが、さまざまな要因が関係して発症すると考えられています。

この病気は、10代後半から20代後半の若い世代に多くみられ、年々患者数が増加しており、日本国内では約4万人以上が罹患しているといわれています。主な症状は 下痢、腹痛、体重減少、発熱です。また、約4~6割の患者さんに痔ろうや肛門周囲膿瘍などの肛門部の症状がみられます。さらに、病状が進行すると腸閉塞や大出血を引き起こし、外科的治療が必要になることもあります。

潰瘍性大腸炎とクローン病は、慢性的に腸に炎症が起こる「炎症性腸疾患(IBD)」に分類されます。これらの疾患は厚生労働省の指定する「特定疾患(難病)」に指定されており、患者数は年々増加しています。

IBDには、症状が強く出る「活動期」と、症状が落ち着く「寛解期」があります。この活動期と寛解期を繰り返すのが特徴であり、症状が落ち着いている間も、再発(再燃)を防ぐために長期間の治療が必要となります。IBDは長期間にわたって炎症が続くことがあり、炎症が長引くと、大腸がんのリスクが高まる可能性があります。そのため、定期的な検査を受け、病気の進行を確認することがとても大切です。

検査・治療法の詳しい説明

大腸ポリープ・早期大腸癌に対する内視鏡的治療

内視鏡的大腸ポリープ切除術(EMR)

大腸ポリープは、多くの場合、内視鏡検査を行いながら切除することが可能です。この治療では、ポリープの根本(茎の部分)にリング状のワイヤーをかけ、高周波電流を使って焼き切ります。治療に伴う合併症として、出血や腸に穴が開く(穿孔)可能性がありますが、発生する頻度は非常に低いとされています。治療後は、消化の良い柔らかい食事をとり、アルコールや香辛料などの刺激の強い食べ物を控えるようにしてください。

粘膜下層剥離術(ESD)

早期のがんが粘膜内にとどまっている場合は、内視鏡で治療が可能です。しかし、がんが粘膜下層まで広がると、リンパ節への転移リスクが高くなるため、内視鏡治療だけでなく外科手術が必要となることもあります。

ESD(粘膜下層剥離術)は、通常のワイヤーを使った切除では対応が難しい大きな病変や、切除が困難な病変に対して行われる治療法です。この方法では、内視鏡専用の電気メスを使用し、病変を粘膜の下の層から丁寧に剥がし取ります。

合併症としては、出血や腸に穴が開く(穿孔)可能性がありますが、発生する頻度は低いとされています。

切除が難しい進行大腸がんに対する全身化学療法

進行した大腸がんに対しては、まず外科手術を検討します。しかし、がんが広がっていて手術での切除が難しい場合には、抗がん剤を用いた治療(化学療法)を行います。治療の選択にあたっては、患者さんの体力や生活状況、がんの性質(遺伝子情報など)を考慮し、腫瘍内科の専門医を含むチームで、適した治療法を決定します。

炎症性腸疾患(IBD)の診断と治療

潰瘍性大腸炎とクローン病は「炎症性腸疾患(IBD)」と総称される慢性の炎症性疾患で、症状が増加した場合、ともに厚生労働省から指定されている「特定疾患」となっています。

IBDは、症状がある状態を活動期、治療により症状が治まった状態を寛解(かんかい)期と言いますが、この活動期と寛解期を繰り返すことがこれらの病気の特徴です。そのため再燃を予防するために長期にわたる治療が必要になります。 また、炎症が長期にわたり慢性的に持続すると炎症性の発癌の危険性が高まることから、定期的な検査を受けることも非常に重要です。

機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群に対する診断と治療

内視鏡検査やCT検査などの画像検査を行っても異常が見つからないにもかかわらず、 みぞおち(心窩部)がキリキリと痛む、 食後に胃が張る感じが続く、このような症状がある場合は、「機能性ディスペプシア」の可能性があります。

また、おなかの痛みや張りを感じる、便秘や下痢が続く、このような症状があり、検査で異常が見つからない場合は、「過敏性腸症候群」の可能性があります。

これらの病気は「機能性消化管障害」と呼ばれ、ストレスが関係していると考えられています。また、胃腸の不調がさらにストレスとなり、症状を悪化させる「脳腸相関」という悪循環が起こることもあります。そのため、ストレスが多い現代社会では、こうした症状に悩む方が増えているとされています。

当院では、機能性消化管障害の診療にも力を入れており、日本消化器病学会の診療ガイドラインに沿った治療を行っています。治療の方法には、内服治療(漢方薬を含む)、食事の見直し(食事療法)、必要に応じて心療内科との連携などがあり、患者さんの症状や状態に合わせた治療を提案しています。

胆のう・膵臓の病気について

胆石・胆のう炎

胆石は、胆汁に含まれる成分が結晶化してできる石のことを指します。この胆石が原因で胆のうに炎症が起こると、胆のう炎と呼ばれる病気になります。症状が強い場合には、胆のうに管を入れて胆汁を排出する「経皮的ドレナージ」や、胆のうを摘出する手術が検討されます。

総胆管結石

総胆管結石は、肝臓と十二指腸をつなぐ「総胆管」にできる結石です。胆石が胆のうから移動して生じる場合と、総胆管自体で結石が発生する場合があります。この病気には、「内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)」という内視鏡を使った治療が行われることがあります。

膵炎(急性・慢性)

膵炎は、膵臓に炎症が起こる病気で、急性膵炎と慢性膵炎に分けられます。原因として、アルコールの摂取、胆石、特発性(原因不明)などが挙げられます。治療は病状に応じて、点滴、内視鏡治療、体外衝撃波を使った結石破砕(石を砕く治療)などを行います。

胆管がん・胆のうがん

胆管や胆のうに発生するがんで、進行の程度によって治療方法が異なります。手術で切除できる場合は、外科手術が行われます。一方で、切除が難しい場合には、抗がん剤を使った治療(化学療法)や放射線治療が検討されます。

膵臓がん

膵臓に発生するがんで、進行が速く、治療が難しいがんの一つとされています。手術が可能な場合は、手術を含めた総合的な治療(集学的治療)が行われます。手術が難しい場合は、症状の緩和を目的とした化学療法(抗がん剤による治療)が行われることがあります。

検査・治療法の詳しい説明

総胆管結石の内視鏡的治療

総胆管結石とは

総胆管結石は、肝臓と十二指腸をつなぐ「総胆管」にできる結石です。この結石は、 胆のう内の結石が胆のう管を通って移動し、総胆管に詰まる場合と総胆管内で新たに結石ができる場合の2つのケースで発症します。総胆管に結石が詰まると、胆汁(たんじゅう)の流れが妨げられ、さまざまな症状が現れます。

主な症状としては、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、右の肋骨の下やみぞおち(心窩部)の痛み、長期間の閉塞による発熱(胆管内の感染を伴う場合)、膵炎を併発することもあります(胆石膵炎)。特に、閉塞が長く続くと、重症化することがあるため、適切な治療が必要です。

総胆管結石の治療法

総胆管結石の治療では、内視鏡を用いて結石を取り除く方法が一般的です。
内視鏡を使った治療(ERCP)では、通常、内視鏡を口から挿入し、十二指腸の出口(乳頭部)から総胆管へアプローチします。この方法には、乳頭を切開して結石を取り除く方法(EST-L)と乳頭を拡張して結石を取り除く方法(EPBD-L)があります。当院では特に「乳頭拡張法(EPBD-L)」を積極的に行っており、多くの症例で治療が可能です(成功率約98%)。

内視鏡での治療が難しい場合は、次の方法を検討します。

  • 経皮的治療(PTBD・PTCS)
    • 肝臓を穿刺して胆管にアプローチする方法
  • 超音波内視鏡を用いた治療(EUS-AG)
    • 超音波を用いて胆管へアプローチする方法

また、結石が大きい場合には、胆管鏡を使って結石を砕く処置(砕石処置)を行うこともあります。

閉塞性黄疸の内視鏡治療

肝臓では、1日に約500~1000mLの胆汁(たんじゅう)が作られます。胆汁は、脂肪の消化を助ける働きがあり、胆管という通り道を通って十二指腸へ流れます。しかし、胆管が腫瘍(がん)や外部からの圧迫によって狭くなったり、塞がったりすると、胆汁の流れが滞り、「黄疸(おうだん)」が現れます。この状態を「閉塞性黄疸」といいます。放置すると、肝臓や腎臓の機能が低下したり、血が止まりにくくなる(出血傾向)ことがあります。さらに、胆管に感染が加わると「急性化膿性胆管炎」や「敗血症」を引き起こし、命に関わることもあります。そのため、早急な治療が必要です。

閉塞性黄疸の治療方法としては、胆汁の流れを改善し、胆管の圧力を下げる(減黄・減圧処置)ために、次の治療法が行われます。内視鏡を使った胆管ドレナージ(ERBD)では、口から内視鏡を挿入し、胆管の詰まりを解除します。皮膚から胆管へ管を入れる治療(PTBD・PTGBD)では、皮膚を小さく切開し、胆管や胆のうに直接管を入れて胆汁を排出します。また、超音波内視鏡を使ったドレナージ(EUS-BD)では、超音波内視鏡を用いて胆管の詰まりを解除する方法が選択されることもあります。

どの治療を行うかは、患者さんの状態や胆管の詰まりの程度によって決まります。迅速に適切な処置を行うことが大切です。

膵がんの治療

膵がんとは(疫学・診断)

膵がんは、進行が早く、早期発見が難しいがんの一つです。そのため、診断された時点で病状が進んでおり、手術が難しいケースも少なくありません。

膵がんによる死亡者数は年々増加しており、2020年の全国集計では、がんによる死亡数の順位として、男性で4位(1位肺がん、2位胃がん、3位大腸がん)、女性で3位(1位大腸がん、2位肺がん)と報告されています。

当院では、膵がんの診断のために次の検査を組み合わせて行っています。ヘリカルCT(高速のCT検査)、腹部超音波検査、磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)。また、膵がんのリスクが高いと考えられる方(膵嚢胞がある方、膵酵素異常がある方、ご家族に膵がんの既往がある方など)は、定期的なフォローを行い、異常を早期に発見できるよう努めています。

膵がんの治療

膵がんの根治(完治)を目指すためには、外科手術による切除が基本となります。手術の方法としては、がんの部位によって異なり、膵頭部にがんがある場合は「膵頭十二指腸切除術」、膵体部・膵尾部にがんがある場合は「膵体尾部切除術」を行います。

手術が可能な場合には、化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療を組み合わせた「集学的治療」を行います。

しかし、膵がんと診断された患者さんのうち、約6割以上の方は、すでに進行した状態で発見され、手術が難しいことが多くなります。その場合には、症状の改善や進行抑制を目的とした治療を行います。黄疸が見られる場合には、内視鏡を使った胆管ドレナージを行い、胆汁の流れを改善します。また、化学療法(抗がん剤治療)によって、がんの進行を抑えたり、症状を和らげることを目指します。また、最近では「がん遺伝子パネル検査」を活用した「がんゲノム医療」も可能となっており、当院では京都大学附属病院(がんゲノム連携拠点病院)と連携しながら、患者さんに適した治療を提案しています。

膵がんの治療については、消化器外科医、放射線科医、病理専門医が参加する「がん治療に関する検討会(Cancer Board)」を定期的に開催し、チーム医療で最適な治療方針を検討しています。

肝臓の病気について

肝炎(急性・慢性)

肝炎とは、肝臓に炎症が起こり、肝細胞がダメージを受ける状態のことを指します。この状態では、血液検査でAST(GOT)やALT(GPT)という肝機能を示す数値が上昇することがあります。

肝硬変

肝炎や長期間の肝障害が進行すると、肝臓が硬くなり「肝硬変」と呼ばれる状態になります。肝硬変には、症状がほとんどない「代償性肝硬変」と腹水・黄疸・肝性脳症(意識障害)などの症状が現れる「非代償性肝硬変」の2つの段階があります。

肝臓がん

肝臓にできるがんには、肝細胞ががん化した「肝細胞がん(HCC)」と肝臓の中を通る胆管ががん化した「肝内胆管がん(ICC)」があります。

脂肪肝

脂肪肝とは、肝臓に脂肪が蓄積しすぎた状態を指します。近年、生活習慣病(肥満、糖尿病、高血圧など)と関連して増加している病気です。

食事や運動などの生活習慣の見直しが重要です。

検査・治療法の詳しい説明

肝炎・肝硬変

肝臓の機能や障害の程度を調べるために、血液検査やCT・MRIなどの画像検査を行います。必要に応じて、肝臓の組織を直接採取し詳しく調べる「肝生検」を実施することもあります。また、C型肝炎やB型肝炎が原因の場合、抗ウイルス薬による治療を行うことがあります。肝硬変が進行すると、肝臓が硬くなり血流の異常を引き起こすことがあります。その結果、食道や胃の静脈が膨らみ「食道静脈瘤」と呼ばれる状態になることがあり、出血のリスクを伴うため、必要に応じて内視鏡検査を行い、適切な対応を検討します。
肝硬変が進行し、腹水や全身のむくみ、意識障害などの症状が現れる状態を「非代償性肝硬変」といいます。このような症状が出た場合、利尿剤を使用して体内の余分な水分を排出し、腹水やむくみを和らげる治療を行います。また、分岐鎖アミノ酸製剤を用いて、栄養状態の改善や肝機能のサポートを図ることもあります。

肝がん

肝がんの治療では、病変の広がりや手術に耐えられる肝機能、全身の状態を慎重に評価する必要があります。治療方針については、外科・内科・放射線科が連携し、カンファレンスを通じて適切な方法を検討しています。

手術が可能な場合には外科的切除を行いますが、手術が難しい場合は、内科的な治療を併用することもあります。

カテーテル治療
肝腫瘍動脈塞栓療法(TACE)

血流が豊富な肝がんに適応される治療法です。がんを栄養する動脈にカテーテルを挿入し、抗がん剤を投与した後、動脈を塞いで血流を遮断し、腫瘍細胞を壊死させます。複数の腫瘍にも対応可能ですが、治療後に発熱が見られることがあり、1週間程度の入院が必要です。

腹部超音波を用いた局所治療
経皮的エタノール局所注入療法(PEIT)

肝腫瘍内に細い針を刺入し、エタノールを注入することで腫瘍を壊死させる治療法です。安全性が高く、副作用の少ない方法ですが、治療には複数回の穿刺が必要となるため、2cm程度のがんで約2週間の入院が必要です。

ラジオ波焼灼術(RFA)

特殊な針を肝腫瘍内に刺し、熱を加えて腫瘍を凝固させる治療法です。使用する針が太いため、腫瘍の部位や血小板の状態によっては実施できない場合があり、また、出血や熱による合併症が起こる可能性もあります。

全身薬物療法

手術が難しい場合や、肝臓の外に転移がある場合、ほかの治療が適さない場合に適応されます。「分子標的治療薬」は、腫瘍細胞の増殖や血管新生を抑制する薬剤であり、「免疫チェックポイント阻害薬」は、免疫が腫瘍細胞を攻撃する力を維持する働きを持つ薬剤です。これらを単独または併用して使用し、カテーテル治療や局所治療と組み合わせることもあります。近年、この分野は大きく進歩しており、治療の選択肢が広がっています。初回は副作用の有無を確認するために入院が必要となり、その後は外来での内服や点滴治療を継続します。治療中は皮疹、高血圧、蛋白尿、免疫関連の副作用などに注意しながら進めていきます。

  • サイトマップ
  • 文字の大きさ
  • 背景色変更