心臓はポンプの役目を果たすため、休むことなく心臓の筋肉が収縮、拡張を繰り返していますが、この筋肉に酸素や栄養分を供給する血管を冠動脈といいます。本治療は、動脈硬化で狭窄や閉塞している冠動脈の内腔(血液の流れるスペ-ス)を、カテーテルとよばれる細い器材を用いて拡張したり開通させたりする方法です。当院では、心臓カテーテル検査と同様に24時間365日いつでも迅速かつ適切な経皮的冠動脈形成術が行える体制を整えています。
治療には、通常バルーン(風船)やステント(メッシュ状またはコイル状の円筒形の金属)といった動脈硬化病変を拡張するカテーテルを使用しますが、その他に、冠動脈内に存在する血栓を吸引するカテーテル、ダイヤモンド顆粒を埋め込んだドリルを高速で回転させて非常に硬い動脈硬化病変を削るロータブレ-タ-やダイヤモンドバック、ある方向に向けて動脈硬化病変をカッターで削る方向性冠動脈粥腫切除(DCA)を用いることがあります。正確なステントの直径や長さの決定、位置の把握、ステントが正円形に十分拡張し血管壁に圧着しているかどうかの判断のため、通常、血管内超音波もしくは冠動脈内光干渉断層撮影と呼ばれる画像診断カテーテルを使用し、より正確で安全なカテーテル手術を行っています。カテーテルを体内に入れていく部位としては、動脈硬化病変の形状や治療方法によって異なりますが、可能な限り体への侵襲が少なく、治療後の安静を必要としない手首の動脈から治療を行っています。
最近では、表面に塗布した薬剤がゆっくりと周囲に溶け出して、再度治療した場所に動脈硬化が進行して狭窄する現象(再狭窄)を起こしにくくするバルーンやステントが使用可能となり、従来の器材と比較して再狭窄や再治療の頻度がかなり低減しています(5-10%)。退院後は内服薬による治療を続けていただき、3~9ヶ月後に再狭窄していないかを評価します。
留置したステントは、数週から数カ月かけて血管を内張りしている細胞(血管内皮)に覆われて壁内に埋没します。
冠動脈の動脈硬化病変が強い石灰化によって石のように硬くなり、バルーンやステントでは十分な拡張が期待できない場合などに行われます。中心に特殊なワイヤ-を通した直径1.25-2.5mmのドングリ状の高速回転式ドリルの先端部分にはダイヤモンド顆粒が埋め込まれていて、このドリルが1分間に約20万回転して硬い病変部のみを選択的に削って赤血球より細かい屑に粉砕します。
ロータブレーターと同様非常に硬い石灰化狭窄病変に対して、側面にダイヤモンド顆粒を埋め込んだ厚さ1.25 mmのクラウンを、遠心力を利用して楕円軌道に1分間に8万回もしくは12万回で回転させることによりドリルのように削りながら狭窄を拡張することができます。前進だけではなく後退しながら削ることができるのが特徴です。
高度石灰化病変に対して音圧波を照射することで石灰化プラークを破砕します。バルーンに音圧波を出すエミッターが内蔵されていて、バルーンを圧着させながら音圧波を照射して硬い石灰化を拡張します。ロータブレーターやダイヤモンドバックと異なり、表在する石灰化のみならず深在性石灰化にも効果を示します。様々な形態の病変に対して特性にあった治療器具を選択して治療を行っています。
我々は、左主幹部/多枝病変由来の急性心筋梗塞/虚血性心筋症や劇症型心筋炎といった、血行動態の破綻した患者さんに対して、大動脈内バルーンパンピング (IABP: intra-aortic balloon pumping; 写真左) や体外式膜型人工肺 (ECMO: extracorporeal membrane oxyg enation; 写真右) といった機械的補助循環装置を積極的に導入し、救命を試みています。ECMOは経皮的心肺補助法 (PCPS) とも呼ばれています。当院の強みとして、臨床工学技師 (ME: medical engineer) が24時間在院しており、我々循環器内科医はIABP/ECMOの管理はMEにまかせて、カテーテル治療の手技および患者さんの管理のみに集中できる恵まれた環境にあります。一方、以前の我々の検討では、IABP/PCPSが必要となるような重症の急性心筋梗塞の患者さんにおいては、多枝病変の存在が院内死亡の独立した危険因子となっていました (Circ J 2010;74:1152-1157)。よってそのような患者さんに対しては、心臓血管外科と協議 (heart team conference) の上カテーテル治療の方針となれば、MEのサポートのもと逆行性アプローチ等あらゆる手段を用いて完全血行再建を目指すべく、日々努力しております。
インペラは、心原性ショック等の薬物療法抵抗性の急性心不全に対して、大腿動脈から左心室内に挿入・留置し、左心室から直接脱血し、上行大動脈に送血することにより体循環を補助するカテーテル式の血液ポンプです。心臓のポンプ機能の一部を肩代わりすることにより、心臓の仕事量を減らして休ませる点で大動脈バルーンパンピング(IABP)や体外式膜型人工肺(ECMO)とは異なる働きがあります。重症の心筋梗塞や心筋炎の救命目的、補助人工心臓や心臓移植までのつなぎの治療目的等に使用します。当院では2018年2月に全国で39番目に実施認定施設に認定され、現在臨床使用可能となっております。
糖尿病、高血圧、高コレステロール、喫煙などにより動脈硬化が進行し、動脈の内腔が細くなったり・詰まったりする病気を閉塞性動脈硬化症と言います。その結果、動脈の支配している臓器(特に、当科は手足を栄養する動脈、腎臓など腹部臓器を栄養する動脈などを扱います)に血流が乏しいことによる症状が出現することがあります。足ですと、歩くとふくらはぎが痛くなったり・張って歩けなくなる、治りにくい傷・壊死が出現するなどです。
その改善目的に、局所麻酔下に主に股の付け根から2mmぐらいのシースという筒を動脈内に入れます。その筒のなかに柔らかい針金(ガイドワイヤー)を入れて治療するべき場所まですすめ、その針金越しに風船(バルーン)カテーテルやステント(金属の網)カテーテルを入れて、病変部を広げます。
傷んでいる血管の場所により、カテーテル治療の効果が長続きしない場所もあります。患者さん・血管の性状・部位によりベストな治療方法を提案します。当科は2012年より血流低下により足に治りにくい潰瘍(難治性潰瘍)、壊死(黒く傷んでいる)に対して末梢血管形成術(カテーテル治療)だけでなく、傷の治療も実施しており、機能的な足の温存を第一に治療を実施しております。カテーテル治療のみでは傷口への血流が困難な場合もあります。その際は、血管再生を促す薬を足の筋肉内に注射する治療や、京都府立医科大学病院循環器内科と連携を取り、骨髄の血液を利用する血管再生療法なども治療の選択肢になります。歩くと足がだるくなる、血流が悪く大切断が必要と言われた、血流が悪くて治りにくい傷などございましたら、かかりつけ医の先生にご相談頂き予約をとって、当科外来にお越しください。
ジェットストリーム アテレクトミー システムはカテーテル治療機器であり、重症石灰化病変を有する下肢末梢動脈において、固いアテローム塊を除去することで拡張を容易にする目的で使用されます。本邦では2023年に発売開始となり、当院でも導入しております。本カテーテルは先端部に5枚のカッターを備えており、カッターが高速回転することでアテローム塊を破砕し、同時にその手前の吸入ポートから切削片を回収する仕組みになっています。
本システムを使用することで、これまでカテーテルでの拡張が困難だった重度の石灰化病変を拡張することが可能となりました。適応病変等については、外来・入院担当医にお尋ねください。
インディゴ システムは、急性下肢動脈閉塞、急性上腸間膜動脈閉塞症に対して、血栓を吸引して動脈を再開通させる目的で使用されます。本邦では2023年9月に保険収載され、当院では2024年より使用可能となりました。専用のカテーテルを血栓部に挿入し、専用のENGINEポンプで持続吸引することで体外に血栓を回収します。急を要する状態で使用する治療機器であり、使用の適応については担当医にお尋ねください。
深部静脈血栓症の治療方法のひとつです。「深部静脈血栓症」はエコノミークラス症候群として知られていますが、様々な要因により下肢の太い静脈に血栓が形成される疾患です。深部静脈血栓症は下腿浮腫や疼痛といった症状がありますが、何より怖いのはこの血栓が肺塞栓症の原因になるという事です。「肺塞栓症」とは肺動脈に血栓等の塞栓物質が詰まり肺への血流が閉ざされる疾患です。下肢からの血流は下大静脈から心臓に入りそして肺動脈へと流れて行きますが、下肢の静脈のような太い血管で形成された大きな血栓は広範囲の肺塞栓症を形成し致死的となる可能性があります。
治療の基本は抗凝固療法ですが、必要な場合には下大静脈フィルターを留置します。下大静脈フィルターは図のようなフィルターを下大静脈に置き、下肢からの粗大な血栓をキャッチして肺へ血栓が流れ着くのを予防します。フィルターは永久留置する場合と短期間で再度摘出する場合があります。
留置方法は鼠径部の大腿静脈、もしくは首の内頸静脈部を局所麻酔し、そこからカテーテルという細い管を通し、放射線透視や造影剤を使用して留置部を決定し留置します。所要時間は約20分程度です。詳細は主治医に確認してください。
心大血管疾患(急性心筋梗塞、狭心症、慢性心不全、心大血管疾患術後、閉塞性動脈硬化症)によって低下した身体的および精神的な機能をできるだけ回復させて、速やかな社会復帰を目指します。疾患の危険性を是正して再発予防に努めることで、これからの生活の質および寿命の向上を図ります。運動療法だけでなく、疾患の理解や生活習慣(喫煙、食事、服薬、心理など)の改善に向けた教育や指導を広く含みます(包括的心臓リハビリテーション)。患者様個別の全身状態や生活習慣に応じた内容とし、複数のスタッフが協議しながら進めます。運動療法は起立、歩行から始め、十分に動けるようならエルゴメーターと呼ばれる自転車のペダル踏み運動器を用いて行います。スタッフとして専任の医師、専従の理学療法士、看護師、管理栄養士、薬剤師、心理判定員などの多職種がチームとして介入します。
心臓本来の調律機能が低下(洞不全症候群)したり、心房心室間の伝導路である房室機能が低下(房室ブロック)することで、心臓の収縮が極端に低下し、心不全症状や意識消失を呈することがあります。こういった場合の治療法としてペースメーカー植え込み術があります。ペースメーカーは、植込み型の小さな医療機器で、通常、左または右の鎖骨下の皮下に植え込まれます。ペースメーカーは、金属製のケースに電池と電気回路が内蔵されたもので、心臓の動きを継続的にモニターし、遅い脈拍を検出した場合は、ごく弱い電気刺激を送り、正常な脈拍に戻します。入院は約1週間で、退院後も定期的にペースメーカーチェックを行います。
MRI装置では非常に大きな磁力を発生させ、ペースメーカーやリードに悪影響を与えるリスクがあることから、これまでペースメーカー植込患者での使用は許可されておりませんでした。 しかし、2012年10月より「条件付きMRI 対応ペースメーカー」が登場し問題は解決されました。元々植込まれているペースメーカーやリードについては残念ながらMRI対応とはなりませんが、新しく条件付きMRI対応ペースメーカー本体とリードの植込を行った方ではMRI撮影が可能となります。MRI撮影時にはペースメーカーの設定変更が必要で、機種により撮影条件が異なりますのでペースメーカー植込を行った病院に相談することが必要です。当院ではほぼ全例に条件付きMRI対応ペースメーカーを使用しています。
心臓は電気信号によって制御されています。その電気信号の乱れを不整脈といいます。不整脈の中で重篤なものは突然死を起こします。植込み型除細動器は常に心臓の電気信号を監視し、重篤な不整脈が起きた場合に即座に電気ショックを与えることで治療します。植込み型除細動器には大きく経静脈植込み型と皮下植込み型があります。どちらを選択するかは病状によって医師が選択することになります。
心臓には刺激伝導系という心臓全体に広がるネットワーク網が形成されており、心臓全体が効率よく収縮できるようになっております。そのネットワーク網の障害により心臓が効率よく収縮できないことによって心不全を生じることがあります。両室ペースメーカーとは心臓の右側と左側の両方にリードを留置して電気刺激(ペーシング)してあげることで心臓が再び効率よく収縮できるようになり心不全を治療するデバイスです。
両室ペーシング機能付き植込み型除細動器とは植込み型除細動器と両室ペーシングの両方の機能を有するデバイスです。
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従来のペースメーカーは本体といわれる金属の筒とリードという導線により構成されています。リードレスペースメーカーは心臓の中にカプセル状の本体を植込むことでリードを必要としないペースメーカーです。従来のペースメーカー適応の方すべてがリードレスペースメーカーの適応というわけではありません。それぞれにメリット、デメリットがありますのでどちらを植込むのかは術前に相談させていただいております。
カテーテルアブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)とは、不整脈の発生源や電気的回路となる心筋に対して、心臓内にカテーテルを挿入し、高周波電流による焼灼を行って、不整脈を治癒あるいは起こしにくくする治療方法です。電気生理学的検査(EPS)と同様に、足の付け根や首、鎖骨下の静脈より複数のカテーテルを挿入し、治療部位を検索、確認した上で、カテーテルと接する心臓組織を高周波電流で温めることにより焼灼巣を形成し、異常な電気の流れを途絶えさせることで不整脈を治療します。脈が速くなる頻脈性不整脈(上室性頻拍、心房粗動、心房細動、心室頻拍など)が対象疾患です。心房細動などの複雑なアブレーションには、不整脈回路を3次元的に解析する3Dマッピングが有用で、このシステムの利用によりアブレーションの成功率が高まると言われています。適応については主治医とご相談して下さい。
アミロイドーシスとは、体内で生じた異常なアミロイド蛋白が全身の様々な臓器に沈着することで機能障害をきたす疾患です。 特に心臓にアミロイドが沈着して異常をきたすのが心アミロイドーシスであり、近年、トランスサイレチン型心アミロイドーシスが注目されています。 遺伝性と非遺伝性があり、心臓肥大が進行して難治性心不全や不整脈をきたします。心臓の症状としては息切れ、浮腫みであり、約半数に神経症状として手足の痺れを伴います。 心電図、心エコー図、99mTcピロリン酸心筋シンチグラフィーなどを行った上で、組織病理検査(腹壁皮下脂肪生検、胃・十二指腸生検、心筋生検)で確定診断を行います。 トランスサイレチン型心アミロイドーシスであればタファミジス(商品名ビンダケル)という治療薬があります。 病気の進行を抑える薬であり、病気が治るわけではありませんが、予後を改善(寿命を延ばす)ことができます。 薬価が非常に高く、厚生労働省保健局より適正使用勧告があるため、ビンダケル導入には日本循環器学会からの施設認定・医師認定が必要とされています。 当院は2021年4月に施設認定を受けておりますので、疑わしい症状、検査所見がありましたら御相談下さい。
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